project
INOKASHIRA 2.0(まちと公園を纏う家)
設計者夫婦の自邸。計画地は、井の頭公園を抜けた先にある、邸宅の生垣や南向きに配置された庭木の緑が連なる低密な住宅地にある。
加速する地価高騰から土地を細分化した無機質な宅地開発が近年増加しており、この地もその一貫で生まれた旗竿地だ。宅地更新に際し、小さな余地を紡ぎ共創することから、井の頭住宅地のゆったりとした景観を次世代に継承するとともに、まちの気配を感じ取れるひらかれた住まいを作りたいと考えた。
建蔽率 40%、3辺を隣家に囲まれる小さな北東向き旗竿地に対し、周辺環境を含めた空地のとりかた・境界の作りかたへの着眼から、住まいの内外でひろがりのある空間を作り出すことを試みた。
公園側のアプローチを迎え入れるよう、敷地の奥に5層のスキップフロアから成るL字型のボリュームを配置し、それに囲まれた三角形の場所“さんかくコモン”によって建物を構成。“さんかくコモン”は、広場状のポーチ、ダイニング、ルーフテラスから成り、隣家との見合いを避け来訪者を迎え入れるよう、接道面に対し50度回転し斜めに構える東向き立面とした。大開口を通じ、庭木の借景や外界の変化を内に取り込む。
北東向きに設けたハイサイドライトは安定した天空光を取り入れ、年間を通し日没まで照明をつけずに過ごすことができる。外壁は、火山灰を主成分とした100%自然素材の左官仕上げとし、天候に応じて表情が変化する。また外構は、東側隣家の了解のもと、境界の石積を足元位の高さに低く設計した。
住まいの内から、敷地内アプローチ、両隣地の外構、その先の道路に連なる一体的な空隙が生まれた。
さんかくコモンが公と私の空間に介在する余白として機能することで、周辺環境とのつながり感や光環境が異なる小さな居場所が5層の各所に点在する。
検討過程では、全工程でBIMを用いて設計した。意匠・構造・設備検討はもとより、属性情報の入力・管理による建具表等の集計表作成、ブラウザから閲覧可能なビューアを用いた関係者間の円滑な計画共有を図った。また、国内では草創期であるBIMデータによる建築確認申請を実施。2次元図面のみでは空間構成が把握し難いスキップフロアに対し、審査機関と事前協議からモデルを共有することで、法適合審査を適正化した。欧米諸国と比較し日本では普及が遅れるBIMは、今後建築に携わる技術者不足が深刻化する中で品質と作業効率の向上を両立する手段として浸透を期待する。
竣工後2年、隣家間の敷地境界に沿って、協創による一体のランドスケープが出来上がった。隣人とコモンガーデンの手入れを通し、等身大の地域コミュニティを育んでいる。1軒の住宅であるが、細分化される住宅地における景観の再編手法として、共感の輪を拡げていきたい。
新建築社写真部
新建築社写真部
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ToLoLo studio
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新建築社写真部
YoshikoNakayama
ToLoLo studio
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新建築社写真部
movie: Martin Shoot Direct Edit
data
主要用途
一戸建ての住宅
建設予定地
東京都三鷹市井の頭
施主名
個人(設計者の自邸)
敷地面積
106.52㎡
建築面積
41.04㎡(建ぺい率 38.53%)
延床面積
83.66㎡(容積率 78.54%)
竣工年
2022年10月
主構造形式
木造 / 地下1階地上2階建て
credit
設計
株式会社中山佳子設計企画 中山佳子
設計支援
田中泰典
構造設計
株式会社スカラデザイン 村上 翔
設備設計
小金澤 淳
施工
株式会社山菱工務店 三浦弘之
製作家具
SCALE 山本大輔
media
〈専門誌〉 『新建築住宅特集』 2024年11月号 (新建築社)
〈TV〉 住人十色 〜家の数だけある、家族のカタチ〜 2023年12月23日放送 (毎日放送)